ABYSS〜First Love〜
ユキナリ

sideB-5

リオの部屋は昔と違って洗練されていた。

アキラさんに作り方を教えてもらったヒンメリという飾りが天井からぶら下がってた。

もっともそれはあの時の安っぽいストローのヒンメリではなく、もっと高級感のあるものだった。

「これ懐かしいな。」

「あー、アキラさんが作ってくれた。
やっぱりプロは違うよな。」

まだアキラさんと繋がってるのか…。

オレは少し不機嫌になった。

「アキラさんここに来たの?」

「いや、でもあれこれ送ってくれる。
自分で焼いた皿とかね。

勿体無くてつかえないっつーの!
あの人、自分の作品どんだけ価値あるかわかってんのかな?

今度都内で個展開くって言ってたから
その時はウチに招待しようかなと思って。」

アキラさんは美術家としてそこそこ売れていた。

「リオ、アキラさんとはどうなってんの?」

オレは少し取り乱してた。

オレと離れてた間、リオはもう誰かのものになったりしたのだろうか?

何もわからなくてただ焦っていた。

「え?どうって…
あ、もしかして妬いてるの?

ユキナリが嫌だって言ったら泊めないよ。」

完全に立場は逆転していて
完全にリオの勝ちだった。

「お前、調子こいてんじゃねぇよ。」

オレはリオをギュッと抱きしめた。

嫌だとは恥ずかしくて言えなくて、
その言葉の代わりに抱きしめるしか出来なかった。

「バカだな。
アキラさんはホントにただの面倒見のいいお兄ちゃんだって。

それにもしかしたらオレじゃなくてオウスケさんに会うかもなんだ。」

リオは優しいからすぐに折れた。

「オレね、ユキナリ以外は眼中ないよ。
ずーっとそう、ユキナリだけ。」

リオがキスしてきてオレは覚悟した。

今夜はリオと行くところまで行こう。

そう決めて瞳を閉じる。

リオも初めてでオレたちは手探りでお互いを求めた。

気持ちいいとかそういうのは正直緊張しててわかんなかった。

それでもバカみたいだけどリオになら何されても良かった。

「ユキナリってベッドじゃMなんだ。

普段はドSなのにね。」

終わった後、リオはそう言ってただ笑った。

「お前な、ふざけんなよ!」

「ユキナリ…初めてだった?」

「わかるだろ?」

「ユキナリがすごくセクシーで全然余裕無くて
おれ、全然ダメだったでしょ?」

「ダメじゃなかったよ。
お前のあんな顔見た事ないから…マジ焦ったわ。」

「そういやユキナリ髪黒くなったね。」

「社会人だからな。」

オレの髪に触れたその朝のリオは
ホントに綺麗でオレはもうコイツと離れられないと思った。

「じゃあ帰るわ。」

「うん、また来てくれるよな?」

別れたくなかった。

このままずっと一緒に居たかった。

リオはオレのネクタイを引き寄せてキスしてきた。

「ユキナリ、好きだって言ってよ。」

オレはそれを言えないままだった。

「恥ずいわ。わかんだろ?言わなくたって!」

でもその言葉を聞くまでリオはネクタイを握ったまま放してくれなかった。

だから言うしかなかった。

「好きに決まってるだろ?」

オレはアイツの耳元でそう言った。

リオは顔を真っ赤にして

「ありがとう。」

とオレのネクタイを離した。

可愛くて抱きしめたくなる。

でも現実に帰る時は近付いていた。

自分の部屋に帰りシャワーを浴びた。

リオの香りが消えていく気がして寂しかった。

アイツはところどころに自分の痕を残していた。

その愛しい赤い痕に指で触れると
昨日の夜のことが甦ってまたリオに触れたくなった。

違うスーツに着替えて会社に向かった。

ロビーでサチが待っていた。

「おはよ。昨日はどこに?飲み過ぎたの?」

「あー、仕事の仲間と飲んでたら
二軒目の店でリオに偶然会ってさ…

2人で飲んだら飲み過ぎちゃって
アイツの家がその店の近くだったから泊めてもらったんだ。」

この時、相手が男なら嘘はつかなくても納得してもらえると知った。

「えー?そうなの?
元気だった?あの子今、サーフィンやめてモデルやってるんでしょ?

やっぱりカッコよくなってた?」

「うん、そりゃもうオーラが違うっていうか…

すごくカッコよくなって周りの女の子が騒いでたよ。」

その時、サチの顔が少し曇ったのがわかってオレは焦った。

少しリオのことを語りすぎたのかと焦った。

でもサチは全く違う風に受け取ってた。

「あの子とユキナリが並んだら言い寄ってくる女の子も結構居たでしょ?」

見当違いだったけど、サチとの契約でオレの浮気は許されなかった。

サチはオレがユキナリと2人で女の子と遊んだんじゃないかと気を揉んでた。

「女の子なんて寄ってこなかったよ。
それに店はすぐに出てリオの部屋で飲んだんだ。」

そんな言い訳も馬鹿らしかった。

だってリオとは浮気じゃない。

本気なんだよ。

本気でアイツが好きで、結婚なんかしたくなかった。






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