ABYSS〜First Love〜
それでもオレとサチは結婚に向けてどんどん話が進んでいった。

話が進むほどリオに逢いたくなった。

オヤジに話そうか?と何度も迷った。

でも病気で寝ているオヤジにそんな心配事を増やしたくない。

オレは現実が怖くて酒を飲む量が増えていった。

そしてある日、バーで近くにいた大学生のグループと揉めて喧嘩になった。

泥酔状態でほとんど覚えてなかったが
我にかえると相手を怪我をさせ、
通報されて警察署にいた。

サチが弁護士を連れて迎えに来て
高い金を払って示談にしてもらうことになり
事なきを得たが、
サチはそんなオレに不信感を抱き始めた。

「ねぇ、何があったの?

何があってそんなに自暴自棄になってるのよ!」

オレは何も言えなかった。

リオを好きだと言いたかったが
それを言ったらリオ以外の全てを無くしてしまうだろう。

「とにかくもうこんな事しないで!
パパに知れたら破談になるわよ?
そうなったらユキナリのお父さんの会社はどうなると思う?」

病気のオヤジのことを思うと
自分の身勝手は許されないと猛省する。

酒がまだ抜けてなくて感情の赴くまま
ただ涙が出た。

「悪かった。」

泣いて謝るオレをサチはただ呆然と見ていた。

でもオレの生活は荒れたままで
サチはその度に苦しんだ。

ある晩、オレは酒に酔った勢いでとうとうリオの部屋を訪ねた。

ずっと逢うのを我慢してたが
その夜はどうしても気持ちを抑えきれなかった。

リオは留守で逢えなくて
世界が閉ざされた気分だった。

歩道橋から下を走る車を見て
全てを捨ててそこにダイブしたくなったが
リオに逢えなくなるのが嫌だった。

それだけの理由でオレは生かされてる。

オレはリオの広告を見て電話したあの日から
一度もかけてなかった電話を
自分からかけた。

アイツは何回もかけてくれたのに…
オレはアイツの声を聞いたら引き返せなくなりそうで怖かったから避けていた。

仕事中なのかアイツは電話にも出ない。

1人の部屋に戻るとリオが折り返してきた。

しばらく着信のリオの名前を見て
電話をとるかどうか悩んだ。

それでも逢いたくて声が聴きたくてオレは電話をとってしまった。

「リオ…逢いたくて死にそうだ。」

リオはそんな素直なオレに驚いたんだろう。

「今どこ?」

「オレの家。」

「住所送って。すぐ行くから。」

いつだってオレが望めばリオは来てくれるってわかっていた。

少し経ってインターフォンが鳴った。

オレは誰かも確かめないでドアを開けると
立っていたのはリオではなくサチだった。

「え?」

「またそんなに酔うまで飲んでたわけ?」

サチは何も言わずに上がり込んで
オレのスーツをハンガーにかけ、
脱ぎ散らかした洗濯物をカゴに入れ
テーブルの上に買ってきたお寿司を並べ始める。

「悪いけど食べたくないし、今日は帰って。」

リオにサチといるところを見られたくなかった。

「何焦ってんの?誰か来るの?
浮気だけはダメだって言ったよね?」

「そうじゃなくて…友達が飲みに来る。」

「友達って誰?」

「リオ。」

「あー、リオくん?

逢いたかったんだ。

知らない仲でもないし、一緒にお寿司食べようよ。」

終わったと思った。

しばらくしてリオが何も知らずにやってきた。

リオは扉を開けたサチを見てかなり驚いてる様子だった。

「ホント、リオくんだ!
覚えてる?私、サチ!海の家のバイトの…ね?」

リオは戸惑っていた。

「なんで…?」

「まだユキナリから聞いてなかった?
私たち結婚するの!

驚いたでしょ?」

リオは何も言わずにただオレの目を見た。

そして笑顔でサチにこう言った。

「えー、知らなかった。
2人ってそういう仲だったんだ?」

「違っ…」

オレが思わず否定しようとしたら
サチが割り込んできた。

「私たちね、劇的に再会して
結婚を前提に付き合うことになってね
来年結婚する予定なの。

ね、リオくんも結婚式に来てよ。

リオくん来てくれたら盛り上がるよねえ?」

サチはリオにオレたちは政略結婚だと言わなかった。

プライドの高いサチは自分は選ばれて愛されて結婚するんだと思わせたかったんだろうが
言う相手を間違えてる。

リオはサチが気の乗らないお見合い相手だとわかってくれてるだろうか?

それともこの話を鵜呑みにしてるんだろうか?

リオの気持ちはわからなかったが
リオはサチに話を合わせていた。

「えー、そうだったんですね。
おめでとうございます。

ユキナリさん、全然教えてくれないからビックリした。」

いつもは呼び捨てにするオレの名前を"さん付け"で呼ばれる度に胸が苦しくなった。

「ね、お寿司食べてって。

ユキナリはお腹すいてないって言うから。」

「はい、いただきます。」

居心地が悪いはずのこの部屋でリオはオレのために嫌な態度を一度も取らなかった。

そしてしばらくサチの相手をして
リオは自分の部屋に帰って行った。

「私、今夜はここに泊まっていい?」

冗談じゃないと思った。

オレは今から急いでリオに逢いに行かなきゃダメだって。

リオの気持ちを考えると飛んでいって抱きしめてあげなきゃいけないと思った。

「悪いけど帰って。
オレ、ここには誰も泊めたくないんだ。」

「ハイハイ、気難しいのね。
リオくんもよく友達でいられるよね。

あの子ホント感じよくていい子よねぇ。」

「いいから帰れよ!」

オレが怒鳴ってサチはかなりビックリしていた。

サチにはすごく申し訳ないのに
オレは自分勝手でリオの事しか頭になかった。





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