寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
七十
 のどかなお昼時にいきなり店の扉が乱暴に開いた。
 いつもなら"カランコロン"と鳴るドアベルは、今日は店は休みなのと、みんながさっきまで寝ていたからと、鐘を外しているから鳴らなかった。

「ミリアさん、いるか? リイーヤがモンスターと戦って怪我をしたと聞いた、それは本当なのか!」

「リイーヤちゃんのケガの具合は?」

 リルガルドの鎧を付け汗だくの、カートラ兄様とランドル様が店に飛び込んできた。そのとき丁度、わたしは出来立てのカツサンドをナサに運んでいるところで、

「え、ええ! カートラお兄様とランドル様?」
「えぇっ、リイーヤ?」

「リイーヤちゃん?」

 ミリア亭の扉を開けたまま固まる、お兄様と、ランドル様。ミリアさんは厨房で調理中、アサトとロカはカツサンドを食べていて、ナサはわたしからお皿を受け取っていた。

「あ、あれっ?」
「…………?」

 状況がの読めないお兄様とランドル様は、取り敢えずあがった息を整え、汗を手の甲で拭いながら店の中を見渡した。お昼どきのミリア亭に客は一人もおらず、泥だらけのアサト達の格好を見て驚いた表情を浮かべた。

「ちょ、ちょっと待ってくれぇ! リイーヤがまた一人、モンスターと戦っている所に騎士団が助けに来て、共に戦い、リイーヤが怪我をしたんじゃないのか?」

「ええ! お兄様なんですかそのデタラメな話は?」

 眉をひそめて、訳がわからない顔をすると、
 アサトとロカ、ナサも同じ表情を浮かべた。

「デタラメ? え、違うのか?」
「カートラ、私達が聞いた話とは違うみたいね」

 みんな狐につままれた表情だ。







 お兄様達はアサト達と同じテーブルに座り困惑気味。
 厨房でコーヒーをいれて、わたしは昨夜の出来事をお兄様達に話した。

「昨夜、寝ていたら……ドゴン!! と北門から大きな破壊音がしたの。わたしはみんなが心配になり……北門に向かっていき、ナサ達の戦いに参加しただけよ」

「そうなのか……で、怪我は?」

「怪我は大丈夫だけど……どうして? カラートお兄様はモンスターが出たこと、わたしが怪我をしたことを知っているの?」

 モンスターが現れたのは昨夜で、
 いまから数時間前の出来事だ。

 リルガルド国に伝わっても明日、明後日だと思う。

「なぜ、俺が知っているかと言うとな。早馬が今朝、ガレーン国の皇太子殿下からの詫び状を屋敷に届けた」

「皇太子殿下からの詫び状?」

 すごく、嫌な予感がする。

「その詫び状の内容は――リイーヤがモンスターとの戦いで怪我を負った。戦いに巻き込んだ責任はボクにあり、責任は取る……と言った内容が書かれていた」

「こ、皇太子殿下が戦いに巻き込んだ? なんだ、そのデタラメな内容は? 嘘ばかり書きやがって、何が責任は取るだと?」

「ナサの言う通り、皇太子殿下の指示のせいで。わたしよりもナサが怪我をしたのに!」

 ナサとわたしが声を上げると『ダンッ!』とテーブルを叩き、アサトとロカも声を上げた。

「皇太子殿下は何の責任を取るきなんだよ。騎士団が俺たちの戦闘に茶々を入れてくれたおかげでーー俺達の陣の要、盾役のナサが怪我したんだぞ!」

「そうです。怪我をしたリヤとカヤを助けるべく、すぐに終わらせなくてはならない戦闘を長引かせたのは、騎士団のせい、皇太子殿下の指示のせいです」

 みんなの剣幕にポカーンとした表情の、お兄様おランドル様。

「そうなのか……親父とお袋はリイーヤがモンスターと戦って怪我をした事と。皇太子殿下が責任を取ると言ったことで……断った筈の皇太子との婚約、結婚になるんじゃないかと、焦っていたよ」

 わたしが皇太子殿下と婚約、結婚? 

「嫌よ、お断りしたのに……」

「まったく。王族、皇太子殿下だと断れないと踏んでいるからだな……いつも奴らは弱いもんに『絶対なる権力』を振りかざしやがって!」

 ギリッと音が聞こえるくらい、ナサが歯を噛んだ。

「そうだな。リイーヤにはナサという良い相手がいる。――うむ、話は分かった。いまから俺とランドルとで本当の話を聞きに王城に出向いてくる。行くぞ、ランドル」

「分かりました、カートラ」

 お兄様たちは足早に店を出て、中央区の王城に向かった。
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