寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
八十
「……ナサ」

「あの子は優しくて兄弟思い……手紙だって欠かさず送ってくれたわ。でも、日々を書いた単調だったの、その手紙が変わったの。可愛い子がお世話になっているミリア亭に来たと、料理はまだヘタで、でも笑ったら可愛い……モンスターと戦ってしまうおてんば女性だと、国のみんなが一から、手作りしている傷薬を気に入ったと、喜んでいたわ」

 ナサのお母様は涙ながらに語ってくれた。優しい瞳で、ナサをとても愛していると言っていた。

「わたし、本当はここの国の出身じゃないんです。一度離縁していて……この国に来てナサと出会って、たくさん助けられました。二度と恋なんてしたくない、怖い、一人でいいと思っていました、でも、ナサが好きで、大好きです」


 ええ、この言葉の後にカランコロンとみんなが来ました。一番に入ってきたナサはわたしとお母様を見て一瞬固まり。

 後から入ってきたアサトとロカは『王妃!』と言い、深く頭を下げた。リヤとカヤは何が起こったのかわからなくて、キョロキョロしていた。

 ナサはハッとして、

「お、お袋! ユーシリン国からどうやってガレーンにきたんだ! ちゃんと護衛は連れてきたんだろうな……?」

「ナサ、すこし落ち着きなさい。外に馬と護衛を待たせております。今日はあなたのお嫁さんを見にきましたの。いい子を捕まえましたね、けして離してはなりませんよ」

「わかってる。シッシシ、リーヤはオレが好きで、大好きだからな」

 満面な笑み! いまお母様に言ったこと、やっぱり聞こえたんだ。

「本当のわたしの気持ちだもの」
「だな。でも、オレの愛の方が負けないけどな、シッシシ」

 くすぐったいナサの愛の告白に顔が保てないくなって、にへへっと笑ってしまうーーそれはナサも同じなのだけど。

「あら、まあ、二人して可愛い」

「そうでしょう、王妃様。ナサとリーヤは結婚してからズッとこの調子なんです。新婚だから仕方がないのですがね、独り身の自分達には目に毒です」

「そうです、羨ましいです。それに二人は愛しあっていて、けして離れませんし」

 ミリアさんも深刻な話の時は遠慮していたのか、みんなが笑顔になって、笑いながらコーヒーを運んできた。

「コーヒーどうぞ、いまに北区で一番のおしどり夫婦になるよ」

「まあ、それは安心ね。国王祭などが開催されて、いまは忙しいみたいだから。ユーシリン国にはラベンダーが咲く頃にいらっしゃい」


「ああ、お袋。オレ達もその時期になったら、オレの生まれ故郷に行こうって、二人で話していたよ」

 ナサのお母様は嬉しそうに頷き。
 わたし達を見回して、

「フフ、ナサは良い人に囲まれて、良いお嫁さんをもらってお母さん嬉しいわ」

 美味しそうに、ミリアさんのいれたコーヒーを飲んだ。その後、わたしはミリアさんに呼ばれて挨拶をしたあと席を立ち、厨房でナサとお母様の会話を聞きながら、みんなのお昼を準備し始めた。

 今日のお昼は小麦粉を薄く焼いた薄パンにお肉、味付けしたひき肉、野菜、チーズを好きなだけ挟んで玉ねぎステーキソース、ピリ辛、甘辛ソースをかけて食べる、巻き巻きサンドと、カボチャのスープ。で、夜は具沢山の爆弾おにぎりと唐揚げ、ウインナー、卵焼き。

 仲良く話していた二人。
 いきなり"ダン"とナサがテーブルを叩く。

「あ? みんなの制止を振り切ってここに来たぁ? お袋! ユーシリン国を治めるチマ兄貴と側近のキア弟は怒って、姫のミミは心配して泣いているぞ!」

 ナサの剣幕。
 どうやら無理やりお母様は、ガレーン国に来てしまったらしい。

「だって、可愛い、美人で、頑張りやだと書いてあった、ナサのお嫁さんに会いたかったのだもの。帰ったら、チッくん達に叱られるから」

 ガジガジ頭をかき。

「……たくっ、わかった。帰るんなら、気をつけて帰れよ」

「ええ……気をつけて帰るわ。その前に言うことがあったの」

 ナサのお母様はガタッと立ち上がり、ナサ、アサト、ロカに深く頭を下げた。

「お、お袋?」

「「王妃?」」

 驚く三人に、

「一度、あなた達には言わなくては、ならないと思っておりました、ナサ、アサト、ロカ、ありがとう。あなた達のおかげでユーシリン国のみんなは戦争も、支配もされず平和に暮らしております………ほんとうにありがとう」

 顔を上げた、ナサのお母様は涙に濡れていた。
 人質となってこの国にいる、ナサ、アサト、ロカには感謝しかない言うお母様に三人は笑って、

「シッシシ、お袋! オレはこの国で楽しくやってる、良い嫁にも出会えたしな」

「そうだな、俺もガレーンで仲間と楽しくやっている」

「ええ、気にならさないでください。私も楽しくやっていますから」

「みんな、ありがとう…………ミリアさん、コーヒーごちそうさま。リーヤちゃん、ウチのナサをよろしくね」

「はい!」

 ナサのお母様は『またお会いしましょう!』と、来た時と同じく颯爽とミリア亭をでていく、その後をナサは見送りにいった。
< 81 / 99 >

この作品をシェア

pagetop