甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
=瑠璃子転落への序章=





壱から預かった紫乃ちゃんの部屋の鍵を鍵穴に差し込みながら、通路を眺めるが無人だ。平日の昼間なんてどこもこんなものだろう。とりあえず今日は解約手続きの確認と、ざっと処分の荷物量の目測をして終わりだ。

壱が言うには、女、町田瑠璃子は平日の朝帰りや日中の大量のメッセージがくることがあり暇そうだ。仕事を含め彼女のことは紫乃ちゃんに聞けばすぐにわかることだが、それは出来ないから、瑠璃子と接触できるまで出入りするしかない。壱は瑠璃子の行く末を紫乃ちゃんに言うつもりはないだろうから。

それから毎日時間を変えて紫乃ちゃんの部屋で1時間ほど処分のため荷物をまとめる。下着等、身に付けるものは後日女性スタッフ…妹だが…に任せる。もう何でも屋はしていないが、壱からの依頼なのと久々に本業以外もやってみるか、という気になり引き受けたが今日はちょっと眠い。引き上げて少し寝るか…

外が見えるくらいに少し開けていたカーテンを閉めようとすると、スマホをいじりながらアパートに近づいてくる若い女…あれか?タイミングを見計らい玄関を出て通路を見るがいない。ゆっくりと鍵の操作しながら少し待つと、さっきの女が通路に現れ、この部屋の反対側へ歩いて行く。端まで行ったのを見て町田瑠璃子だと確信したので、咳をしながら鍵をゆっくりと抜き通路を通り階段の手前で女の方を見ると、バッチリ目が合った。来るか?

「あのぉ…紫乃のお友達ですか?」

その声に曖昧に会釈して階段を降りる。かかれよ。
< 58 / 348 >

この作品をシェア

pagetop