義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
(私のこと、嫌っているはずなのに)

それでも言われるままに背筋を伸ばし、場の空気に負けないようにきりっとした表情を作る。

そうだ、私個人はたいした人間じゃない。だけど、私が格好悪ければ、天ケ瀬丞一に恥をかかせてしまう。近い将来、義父から天ケ瀬グループのすべてを受け継ぐ義兄。
妹の私が彼の評判を落としてはいけない。

天ケ瀬ぼたん、二十二歳。
私は国内有数の大企業天ケ瀬グループの社長令嬢。
義父と義兄に恥じない振る舞いをしよう。

「お兄ちゃん、ごめんなさい。もう大丈夫です」

義兄はこのパーティーで多くの人たちに挨拶をしなければならない。そして、義兄と話す機会を得たいのは会社関係者だけでなく、同席している若い女性たちもだろう。この人はいつまでも私のそばにいてはいけない。

「いい。どうせ、向こうから寄ってくる。おまえは俺の傍にいろ」
「でも」
「兄妹の仲がよくてなんの不思議がある。ここにいろ」

義兄は譲らず、私の隣から離れようとしない。
やがて、取引先の取締役といった人々が彼の周りには詰めかけたけれど、私が場を辞そうとすると義兄は目で制してくる。
そこにいろ。視線が言う。

パーティーが終わるまで、私は義兄の近くにいた。所在ない気持ちを必死に隠して。



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