雨上がりの景色を夢見て
立ち止まった私に合わせて、藤永先生も止まる。

ゆっくりと私の手を握って、少し足速に歩き、人通りの少ない路地裏へと入る。

「ふ、藤永先生「…そんな顔しないで」

私の言葉を遮り、そう言うと、水滴のついたメガネをポケットに入れて、藤永先生が私の長い髪の毛を耳にかけた。

いつもと違う雰囲気に、私の心臓の鼓動が速くなる。

「…俺が入る隙は、無いのかな」

切なそうに見つめる藤永先生の目から視線を外せない。

「…隙…ですか…?」

「夏奈さんの身体のこと理解してるよ…?どんなに苦しんだのか、悲しんだのかその辺の男よりも知ってる。まぁ、夏樹くんには敵わないけどね」

私の顎に手を添えて、クイッと上に引き上げる。

男らしい藤永先生の雰囲気に驚き、私はその手を振り払えない。

傘がパサっと床に落ちる音がしたのと同時に、私の唇は、藤永先生の唇によって塞がれた。

男性とキスをすること自体、病気をして以来初めてで、どんな反応が正解なのか全くわからない。

「…先生…どうして」

「…ずっと想ってたよ、夏奈さんのこと。初めて受け持った時から…。不謹慎だけど、年に1回の検診で会えることが嬉しかった…。何事もなく、ほっとして帰っていく君の姿が心の支えだったよ」

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