独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
「分かってます。あの時の私はどうかしていました」
「あのとき? 最近まで繰り返していたのだから一時的な間違いではないだろう。こちらも初めからクレームを入れるつもりはなかった。行動がエスカレートしたから抗議した」
「途中からは駄目だって分かってはいました。瀬尾さんの情報とは違い神谷さんは奥様をとても大切にしていらっしゃるし、それを私に伝えようとしているのだと気付いたから。、でも……その頃には引けなくなっていたんです」
「それはなぜだ? 瀬尾が怖かったのか?」
美帆は泣きそうに顔を歪め、俯いた。
「その頃には神谷さんを好きになってしまっていたからです。瀬尾さんに言われて近づいたのに、直接話が出来るようになって神谷さんを知る度に程惹かれていきました……好きなんです」
消え入りそうな声だったが、晴臣の耳にはしっかり届いた。
同時にうんざりした思いが襲って来る。
「君は瀬尾の言いなりになり、大して知りもしない俺に近付いてきた。普通ならなぜそんな頼み事をされるか問いただすところだ。しかしそうしなかった。恋人を怒らせるのが嫌で断れなかったからだろう? それだけ好きだったと言うことじゃないのか?」
「私はそう思っていたんですけど、違っていたみたいです」
どこか悲し気な美帆の話しはまた要領を得ないものになった。
(瀬尾と別れたということか?)
自慢気に浮気話をするような男だ。移り気なのは間違いない。ただ美帆にはそれ程同情を感じなかった。
むしろ似た者同士だと呆れている。