夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

 あれっ? と思ったのは、2本目の映画を見終わったとき。

 あと5時間ほどでニューヨークに着くという頃だった。

 視界の(はし)で何かがキラリと光ったような気がしてそちらを見ると、窓から外を眺めている彼女の頬を一筋の涙が伝っていた。

 ――綺麗だな……

 窓から差し込む光と照明を落とした機内のコントラストが彼女の横顔に陰影をつくり、涙の(しずく)がキラキラと輝いている。

 そして何より、瞳を揺らしながらきゅっと唇を噛み締めている凛とした表情が、何か覚悟を決めたかのようで、とても印象的だった。

 トクン……と胸が鳴って、目が離せなくて。

 気づけば足元のボディバッグからハンカチを取り出し、彼女に差し出していた。

「――これ、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」

 自分でもらしくないことをしている自覚はあった。

 自分の容姿が異性を惹きつけるものであることは自覚しているし、ちょっと微笑むだけでも勘違いの元になることは実証済みだ。

 けれど鈴のように軽やかな彼女の声に導かれるように、俺は、ハンカチをあげると言っていた。

 まだ恋なんかじゃなかった。

 ただなんとなく、一枚のハンカチが彼女と俺を繋いでくれるような……なぜかそんな気がしていたんだ。
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