夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
――なんて考えていた時点で、もう俺の中では始まっていたのかもしれないけれど。
それでも俺も32歳の大人としての分別はある。
涙の理由を問いただすこともなく、彼女とは13時間隣り合わせただけのただの他人として終わるつもりでいた。
心の中に芽生えつつあった何かに気づきもせずに……
それなのに。
運命の女神ならぬニューヨークの女神は僕たちに予期せぬ再会をもたらした。
翌日、俺が毎週土曜日だけ手伝いに来ているラウンジに彼女が客としてやって来たのだ。
いきなり『ハンカチ王子!』なんて呼ばれたことには驚いたが、同時に俺は運命を感じてときめいていた。
カウンターの端から何事かとこちらを見ている友人の久遠臣海に近づき耳打ちする。
『彼女がさっき話してた飛行機の女性』
『嘘だろ、そんな偶然あるのかよ』
嘘みたいだが、そんな偶然が起こったのだから仕方がない。