夢を叶えた日、一番にきみを想う
プロローグ
「あー、だるい……」

通っている個別指導塾の教室がある5階にむかうためにエレベーターに乗り込むと、自然と本音がこぼれる。
エレベーターの壁にもたれてため息をつくと、背負っているリュックが余計に重く感じた。

「お前、また先生からNG出されたんだって?」

俺に続いてエレベーターへ入ってきた双子の弟の祐樹(ゆうき)が、5と書かれたボタンを押すと、ゆっくりとエレベータの扉は閉まる。塾に行くことから逃げられないように鉄の箱に閉じ込められたように感じて、もう一度大きなため息をついた。

「らしいな」
「もう、替えの先生いないんじゃない? 塾長が教えることになったりして」
「……別に先生なんて誰でもいい」

塾に通い始めて半年少し。
俺の担当になった先生は、数回授業をすると、次々と俺の担当から離れていった。


まあ、それはそうだろうな。
こんなやる気のない生徒に教えるのは誰だって嫌だろうから。

自分のせいなのに、塾の先生に同情してしまう。

別に授業をサボったり、授業中に騒いだりするわけではない。
それでも自主的に問題を解くどころか、出された宿題すら全くやって来ない俺を“指導したくない”のは当然のことだと思う。

「あーあ、塾、辞められないかな」

いっそのこと、塾長から「辞めてください」と親にお願いしてくれたらいいのに。
いや、もしそうなったとしても、別の塾に入会させられるだけなのだろうか。

「んー、まあ、無理だろうな」

俺も辞めたいけれど、と祐樹は付け加える。

「何回も『嫌だ』って言ったけれど、結局は無理矢理入塾させられたじゃん」
「普段は何も干渉して来ないくせにな」

苛立ちを含みながら吐き捨てた言葉に、祐樹は苦笑した。

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