たぶんあなたの子です? 認知して下さい!
✴︎


帰宅後、秀斗の買ってきた晩ごはんを簡単に食べ、古い(たらい)を納屋から出して洗い、それにお湯を張って賢次をお風呂に入れた。

秀斗は淡々と手伝ってくれる。

賢次の世話を終え、後はミルクを飲ませて寝かしつけるだけ。

秀斗はずっと彼女の横に座っている。


「兄の行きそうなところに思いあたりはない? 」

「うーん、ないですかね〜 」


と賢治に哺乳瓶でミルクをあげた後、座敷に寝かせながら、そう彼女は答えた。
秀斗はその横顔を隣で見る。

賢次に向ける優しい笑顔。

兄の行方は全くの他人事、チラリとも彼女の心に賢斗の安否は浮かばないのか。
顔もわからないんだからな。
彼女は呑気なものだ。

この子を抱いて妊娠させて、あげく捨てられたのは兄の方、そのせいで行方知らずというのに。

この華奢な体に⋯⋯ 。


「正常位? 」


といきなり聞いたら、彼女は全く何のことかわからないように、秀斗を見つめた。


「賢次を作った時」

「? 」

「どんな体位でやったの? 」

「たいい? 」

「だから、こうしたの? 」


とそっと押し倒して、触れないように四つん這いのように覆いかぶさった。


「⁈ ⁈ ⁈ 」


彼女はブワリと真っ赤になり、目を大きく見開いた。手は驚いたあまり、秀斗の両腕のシャツをぎゅっと握りしめている。

こんな反応はかえってその気になるっていう、と秀斗は思いながら、間近に彼女の目を覗き込めば、息を止めた彼女の唇が噛み締められた。

それから秀斗はかがみ込んで耳元に、


「こうやったの? 」


と聞いたら、彼女は、無言でやっとのように、何度もうなずく。
だから、秀斗はすっと離れた。
彼女の握りしめた袖のシャツが最後に離されてシワになった。秀斗は何事もなかったように座敷に座る。

彼女はやっと起き上がって、髪がもつれて、顔が赤くなって秀斗を直視する事が出来なかった。

初心な反応で⋯⋯ 、と秀斗は思った。


「じゃ、正常位ね」


と呟き、見透かすように彼女をじっと見た。

沈黙が重く2人の間に落ちた。

肯定しながらうなずいた彼女を見ながら、正常位のはずがある訳ない、と秀斗は確信していた。

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