たぶんあなたの子です? 認知して下さい!
︎✴︎


若月家には、平日、通いのお手伝いのお婆さんが来ていた。秀斗が生まれる前から、もう40年ほどになるという。
急に現れた母子を何て説明したのか知らないが、ごく普通に親切に接してくれた。

毎日の夕食も作ってくれる。

知らない家に上がり込んで、尋人は行方不明。他人の大人が3人いる、こんな状況⋯⋯ 。
しかし賢次は赤ちゃんだ。
大人の事情など関係ない。
ただひたすら、寝て、起きて、泣いて、ミルクを飲んで、うんちをして、生きようとするだけだ。

色々考える事はあるだろうに、結局、周りで大人は赤ちゃんをひたすら世話していた。もちろん愛情を持って。

日中はお手伝いさんと2人で賢次の世話をして、5時ごろお手伝いさんが家に帰る。
ほどなくして早い時間の夜に仕事を終えて秀斗が帰宅。
夕食は2人で一緒に食べた。

数日過ぎれば、まるで日常のように⋯⋯ 。
彼女はチラリと秀斗の顔を見た。
彼は真面目に食べている。
すごく綺麗な姿勢と箸使い。

あれから。
押し倒されてから⋯⋯ 。

あの時、正直驚いて一気に血がのぼったように感じたが、不思議と疑ったり恐く思う気持ちはなかった。

それに、今。
あんな雰囲気は全く感じさせない。
穏やかな食事風景。

彼女の視線に気がついて秀斗の目が向けられた。それから「何? 」といった感じに眉を上げた。

とたんに、また血が上るように、ドクンと苦しくなって〈いえいえ何も〉と首を振りながら慌てて皿に目を落とす。

頬が熱くなるみたいだ。

でも秀斗は、そんな彼女に対しても変な事は言わなかった。
秀斗の配慮に彼女はホッとした。

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