眠りにつくまで





絶品ガトーショコラと聞いていたので、光里はメニューを見る必要はなかったようだ。

「カフェじゃなく喫茶店という感じだな。俺、ナポリタン食べよ」

乃愛の店で俺は‘乃愛’と一度も呼ばなかった。玲央と乃愛が付き合っている時には一緒に食事もしたし、乃愛の方が年下なのもあって‘乃愛’と呼ぶのが普通だ。しかし今日は光里の前で呼ぶ気にならなかった。

「買い物、あれだけで良かったのか?」
「はい、素敵なものばかりでしたけど今、物が増えると大変なので」
「その引っ越しだから?」

小さく頷き水を一口飲んだ光里が話してくれた。

「9月の最初に連絡があったんです。アパートは取り壊しで低層マンションが建てられるって。そして優先して入居出来ますよっていう案内だったんですけど、そこはお家賃が倍になるんです」
「倍か…しかも建設中はどこかに引っ越しになるよな…」
「そうですよね」
「まだ何も決めてない?」
「はい。探し始めはしましたけど…まだ何も」
「今の部屋は長いの?就職してから?」

俺がそう聞くと彼女の表情が少し硬くなったようだ…なんだ?
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