仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
序章

「なんでもかんでも、頭をかち割ればいいってものじゃない」

 スクール形式で最大二百席、天井高四メートルあるカンファレンス室に、低い声が響き渡った 。

 ブラインドはすべて下ろされ、スクリーンが見やすいように薄暗い仕様になっている。そんな中、集まった医師や薬剤師、看護師の視線は声の主である『岩鬼総合病院』の脳外科医、岩鬼大知にいっせいに向けられた。

 ここ、岩鬼総合病院は、あらゆる診療科を網羅する総合病院で、八百床というベッド数を誇る。最先端技術を用いた治療ができるという理由で、県外から訪れる人も珍しくない。

 現院長である大知の祖父が一代で築き上げ、メディアに取り上げられる機会もしばしば。つまり大知はこの病院の跡取りとも言える。

 三十三歳だが 、すでに豊富な臨床実績があり、腕は確かだと言われている。とくにカテーテルや、ワイヤーを用いた繊細な血管内治療に定評がある。



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