仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 どこまでも杏優先で、有言実行してしまう大知。毎日好きな気持ちが募って、昨日より今日、今日より明日と、アップデートされ続けている。いろいろあったあの日から半年たつが、二人は甘い生活を楽しんでいた。

 そして今日は、約束だったメダカを購入することになっている。

「メダカにもいろんな種類がいるんですね」

 熱帯魚屋の水槽を覗き込みながら、杏が真剣な顔で選んでいる。

「杏が寂しくないように、家中を水槽いっぱいにするか」
「大知さんったら、またそんな豪快なことを」

 水槽を眺めながら、クスクスと笑う。

 大知は変わらずあの病院で頑張っている。秘書の閑は解任され、最近新しい秘書の人が入ってきたと言っていた。

 あのとき、マンションの下で閑と会ったのは、どうやら偶然ではなかったらしい。閑は杏に対して勝手に膨らませていた恨みを晴らすため、自宅へと乗り込むつもりだったと、顧問弁護士を通し聞かされた。

杏が病院に行った際、ふたりの仲睦まじい姿を目撃したことが決定打になったのだろう。

 いくら相手が女性とはいえ、我を忘れた人と密室にふたりきりになるのはやはり怖い。一歩遅かったらどうなっていたか。

 そんなこともあり、大知はあれ以来、一日に一回、必ず家に帰ってくるようになった。脳外科の副部長という役職がつき以前にもまして忙しそうだったが、家庭と仕事の両立をしようと努力してくれている。

 ほんの三十分しかいられなくても、お互いの状況や気持ちを伝え合おうと決めた。


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