仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
終章


 時は流れ、季節は草木が茂る時期が巡ってきた。

 三月、杏は大学院を卒業し、四月から学校や病院に訪問する、臨床心理士の見習いとして働くことになっている。

 まだまだ学びの途中で、自分の不甲斐なさに反省することもあるが、その度に大知という大きな存在に支えられていることを、痛感している。

 北条病院は大知のお陰で閉院を逃れ、明も志乃も毎日元気に働いている。今の杏の目標は、あの病院に自分の診療科を持ち、明と一緒に働くことだ。

 そのために、数年は外で頑張って、経験を積もうと決めている。それまで明には現役でいてもらわないと困るため「しっかり食べて寝て元気でいてね!」と、口うるさく伝えている。

 明もまんざらではなく、杏の忠告を受け入れ、最近は健康に気をつかい始めたと、志乃が言っていた。

 毎朝仕事前に、スタッフ全員でラジオ体操をするのが日課になっていて、付き合わされて大変なのよ、と志乃が愚痴っていた。

 口には出さないが、愛娘と一緒に働ける日を、心待ちにしているのだろう。みんなが笑顔で暮らせるのは、大知のお陰。もしあのとき、あの提案を持ち掛けてくれなかったら、明も志乃もきっと落ち込んでいたに違いない。



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