仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
第三章 幸福な時間


 なにがなんでも、杏の心を、自分の方に向かせる。心の中で意気込みながら、オペ看に手を差し出す。

「ドリル」

 一秒足らずで、大知の手の平に乗せられると、それを器用に操り、頭蓋骨に穴をあけていく。いくつか穴が空くと、それらをカッターでつなぐように切り、頭蓋骨を外す。

 脳が露出するとファイバースコープ越しに、三センチ大の大きな瘤が確認できた。

(こいつが悪さをしていたんだな。全部とってやるからな)

 麻酔で眠った患者に心の中で伝えると、メスで徐々にそれを切り離し始めた。

 脳腫瘍を患うこの患者は三十代女性で、夫も子供もいる。片方の手足、顔半分の麻痺・痺れといった症状が半年前から現れ、近くの脳外科を受診後、当院に紹介されオペ適用と判断された。

 しかも彼女の腫瘍は、少し厄介な場所にあり、何件か断られた後、大知の元にやって来たとこのことだった。


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