身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
ヴィンテージな記憶

 俺が貴重な記憶の一部を取り戻すきっかけになったのは、部屋で見つけたフラワーピアスだった。

 見覚えのないそれを手に取り、胸が激しくざわめくのを感じていた時、スラックスのポケットに入れていたスマホが鳴り始める。取り出してみると、鈴加さんからの着信だった。

 すぐに電話に出て用件を聞くと、商品の作成過程で問題が発生し、来月の新商品発表会に間に合わないかもしれないとのこと。俺も対応にあたるべく、一旦社に戻ることにした。

 担当部署や関連会社と連携して対処し、なんとか大きなトラブルにはならずに一段落ついたのは午後十時頃だった。副社長室で帰り支度を整える俺に、ずっと協力してくれていた鈴加さんが頭を下げる。


「申し訳ありませんでした。お帰りになられた後なのにお呼び出ししてしまって」
「いいんだよ。多方面に迷惑をかける事態にならなくてよかった。君もお疲れ様」


 手助けしてくれたことに感謝して労うと、彼女はなにか言いたそうにそわそわし始める。


「あの……副社長も夕飯はまだですよね? よければ、一緒にお食事していきませんか?」
「そういえばまだだったな。行こうか。今回のことでリスケが必要になりそうだから、その打ち合わせを──」
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