白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫だとはわかってます

━━━━数日後。



フィルベルド様をお出迎えするのは、毎日の日常だった。



「おかえりなさいませ。フィルベルド様」

「ただいま。ディアナ」



そう言って、フィルベルド様が額にキスをしてくる。



「……フィルベルド様。毎日しなくていいのですよ」

「どうしてだ? 早く夫婦になりたいのに……」

「欲求不満ですか?」

「違う!!」



困ったように、片手で頭を抱えるフィルベルド様の腕には、大きな花束があった。



気を取り直したフィルベルド様は、スッと私に花束を差し出す。



「……ディアナ。これを君に」

「私にですか?」



リボンのついた大きな花束は、真っ赤なバラ一色だった。



「ありがとうございます」



真っ赤なバラを恥ずかしながらも受け取ると、フィルベルド様は眼を細めて優しい顔になる。



「少し庭に出ないか? 見せたいものがある」

「はい……」



真っ赤なバラをオスカーに渡すと、「すぐにお部屋にお持ちします」と、大事に持って行ってくれる。



フィルベルド様は、「さぁ……こちらへ」と、私の手を引き庭へと歩いた。



庭園へと歩くと、フィルベルド様がアクスウィス公爵邸から、バラを持って来させたらしく、あの大きな大輪のバラが植えてあった。



「初めて会った時に、このバラに夢中になっていただろう? アクスウィス公爵邸から、少し頂いた。ディアナに贈りたい」

「ありがとうございます。すごく嬉しいです……」



本当に綺麗で見事なバラだった。まさか、またこのバラをフィルベルド様と一緒に見られるなんて考えてもなかった。

彼の気持ちが嬉しいと思うと、思わず口元がほころんでしまう。



「笑ってくれた……良かった……」



ホッとした安堵を溢すフィルベルド様を見た。



「いつも笑ってないですかね?」

「そういう笑顔とは違うんだ……そのほころんだ笑顔が、俺だけのものというか……」



そう言われてみれば、フィルベルド様以外にふいに零れた笑顔はないかもしれない。



「でも、嬉しいと笑顔は自然に出ますよ?」

「いつもの自然に出る笑顔とは違う……」



意識して、笑顔をつくっているわけではなかったから、気付かなかったけど、彼には違いがわかるらしい。



「今度は、私が何かしますね。フィルベルド様は何が欲しいですか?」

「ディアナが側にいてくれるだけでいい。君以外に欲しいものなどない」

「……やっぱり、欲求不満ですか?」

「何度も言うが、違う!!」

「そうですか……では、私のほうで何か考えておきますね」



そう言って、視線をバラに移した。

ふうっとため息をついたフィルベルド様が後ろにいる。彼は、今はどんな目で私を見ているのだろうか……。



「……ディアナ、耳が赤い……もしかして、照れているのか?」

「……フィルベルド様が、早く夫婦になりたいと言ったから……」



結婚しているのに、早く夫婦になりたいと言われれば、夜のことが浮かんでいた。

まだ、一緒のベッドにも入れなくて、しかもフィルベルド様には、あのご令嬢がいる。



それでも、私だって照れることはある。知られないようにと流していたけど、フィルベルド様は、意外と鋭い。



「少しは、意識してくれているのだろうか? 期待をしても?」

「意識? ……そ、そうですね……」



これは、フィルベルド様を意識しているのか、どうか分からない。男性に免疫がないだけではとさえ思う時があるからだ。



「その、今気づきました、みたいな表情はなんだ?」

「いえ……夫だとは、わかっていますよ」

「では、期待しても?」



そう言って、頬に男らしい筋の張った手が伸びるとドキリとする。



「そ、それは、ちょっと待ってください」

「ディアナのためならずっと待とう」

「あ、ありがとうございます……」



彼の真剣な眼差しが恥ずかしくて、ふいっと顔を反らすと温かいものが頬に当たる。

背の高いフィルベルド様が、腰をかがめて頬にキスをする。

そのまま愛おしそうな指が唇に微かに触れた。



最近は、少し距離が近くなったけど、顔を赤らめるのはそうすぐには変わることは出来ないまま、彼に見つめられていた。







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