秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「同居期間は三か月もあるんだ。チャンスはいくらでも作れるだろう」
 頭がクラクラする。目の前の男は本当に自分の父なのだろうか。
(この人はお金のために娘の人生を利用することをなんとも思わないんだ…)

 優しかった祖父と伯父と、同じ血が流れているなんてとても信じられない。そして、自分がこの男の血を引いていることも信じたくなかった。
「お母さんは? お母さんはなんて言ってるの?」
 期待できないのは承知のうえで、それでも聞かずにはいられなかった。場違いな明るい声で琢磨は言う。
「もちろん大喜びだ。大河内家に嫁にと望まれるなんて清香は幸せ者だとうれしそうだったぞ」

 母は専業主婦だ。お嬢さん育ちで、今も少女のままのような女性。
『女の子はいいおうちにお嫁に行くのが一番の幸せで、仕事なんて男性のするものよ』
 それが彼女の口癖で、本人もそれを実践している。当然、榛名画廊の惨状なんて知ろうともしない。清香はなにも言わずに席を立ち、すっと踵を返した。

 その背中に聞こえるように、琢磨はこれみよがしなひとり言をつぶやいた。
「そういえば、葉子さんの旦那さんが新しい治療法を試してみると言ってたなぁ。高額らしいけどねぇ」

 迷いはあったけれど、結局、清香は昴との顔合わせに出向いた。


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