秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「もうさ、そんな最低な両親は捨てちゃえ! 清香は学芸員として立派に自立してるんだから。困ったときは私が助けるし。ほら、自慢じゃないけど、うちって財産だけはたんまりあるし。ちょっと薄汚れたお金だけど」
 あの両親に感謝することがあるとすれば、茉莉と同じ学校に通わせてくれたこと。それだけだ。

「うん、ありがと。茉莉」
「それで、新しい恋をしようよ! ね、そうしよ、清香」
 どうしてか、茉莉のほうが泣きそうな顔をしている。彼女を安心させるため、清香は軽い口調で答えた。
「そうだね。大河内家のことは忘れて、新しい人を探すよ」
 そう口にしたけれど、志弦を忘れてほかの誰かに恋をする自分は、どうしても想像できなかった。

 碧美島に行った頃は残暑が厳しかったなんて嘘のように、季節はもう冬に向かって走り出していた。
 実家には『昴さんの都合で延期になった。それがいつになるのかは知らない』とだけ伝えてあったが、琢磨からもなんの連絡もない。それはつまり、大河内家からのアクションがないということだろう。

 清香の予想したとおり、『花嫁試験』は不合格に終わったのだ。
 そう結論づけた清香をあざ笑うかのように、スマホに知らない番号からの着信があった。志弦と再会した見合いの日から、ちょうど三週間後のことだった。
「もしもし。どちらさまでしょうか?」
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