秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 警戒しつつ電話に出ると、聞こえてくる声は女性のものだった。
『榛名清香さんのお電話間違いないでしょうか? 私、大河内本家に勤める白井駒子(こまこ)と申します』
 淡々とした機械的な口調で、パーソナリティが読み取りづらい。若くはないが、おばあちゃんと呼ぶほどの年齢ではなさそう。わかることはそのくらいだ。
「……はい」
 答える声に緊張が走る。
(大河内家の人が直接なんて……なんの用だろう)

 その疑問に彼女はすぐに答えてくれた。
「昴さんの合格が出ましたので、清香さんには本家での花嫁教育を受けてもらいます。来月頭に赤坂の大河内本家までおいでくださいまし」
 琢磨と同じく、彼女も清香の意思などないもの同然に、一方的に話を進めてくる。さすがに少しむっとなって言い返す。
「合格もなにも、あの日……昴さんにはお会いできませんでしたけど」
「それはうかがっております。ですが、昴さんが顔合わせは不要とおっしゃっていますので。あなたとの縁談は源蔵さまの遺言でもありますから」

 彼女にとっては、清香だけでなく昴の意思もさほど重要ではないようだ。
「行かない、そう答えてもいいのでしょうか」
 駒子の傍若無人ぶりに腹が立って、思わずそんなふうに言ってしまった。
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