ぼくらは薔薇を愛でる

初めてのお茶会

 初めてのお茶会の日が来た。天気はとても良い。昼過ぎに約束しているため、朝食は軽めに摂り、湯浴みをして支度を始める。

 クラレットは先日買ったワンピースに袖を通すのが楽しみだった。クリーム色の生地に小さな花の刺繍が入っていて気に入っている。少し緩めのウエストは腰リボンで如何様にも調整ができ、ハーフアップにした髪にはワンピースと共布で作った幅広リボンを結んだ。

 部屋の姿見でくるくる周り最終確認をしていると、パープルがガサゴソと何かを取り出した。

「お嬢様、一度こちらにお座りください、少しお化粧もいたしましょう」
 ドレッサーの前に呼ばれた。お化粧、と聞いて気分が上がる。

 ――まるでお姉さんのよう! けどお化粧道具はまだ持っていないのに。

「こちらはアザレ奥様のご実家より贈られたものにございます、そろそろ持っていてもいいだろうと、一式揃えてくださいました。念のため持ってきて良かったです」
 亡き母親アザレの兄夫妻がクラレットをよく気にかけてくれていて、化粧道具は今年の誕生日に贈るつもりだったらしいが、手配しておいたら早めに届いたとの事で、贈るのを待ちきれず届けてくれた。クラレットがお茶会や友人と出かける時はこれでおめかししてやっておくれ、とパープルが言いつかっていた。

 肩周りに布を被され化粧がはじまった。顔全体に薄くお粉をはたいたらモフモフのついたもので頬紅を乗せていく。濃くなり過ぎないよう、ごく軽く乗せてから眉の形を整える。唇には薄く色づくリップクリームを塗って完成だ。

 大人のする化粧とは少し違って簡易的なものだが、鏡の中の自分が変わっていく様子を鏡越しに見ていたクラレットは楽しかった。パープルがまるで魔法をかけているようでワクワクした。

「はい、できました。唇は普通になさってください。ずっとそのお口ですとレグ様が驚かれますから」
 唇に何か塗るのは初めてで、まともに口を閉じたらいけない気がして、半開きのままでいた。

「それからバッグに、今お塗りしたものと同じリップが入っておりますから、お食事後のお手洗いに立った時、鏡を見ながら、こうして……そうですそうです、ほんの少し回して、そっと唇をなぞりますよ、軽くね。強く押し付けると折れますから」
 鏡を覗き込みながら塗り方を教えてもらう。少しだけ不安はあるが、困ったらあちらの侍女さんに教えてもらおう……そう思い、リップをバックに仕舞った。

 初めてのお茶会、初めてのお化粧。それから、初めての――。
 考えたら頬が熱くなって、心なしか胸の痣も少しチリチリし出した。
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