政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
 涼成さんは真剣な表情で私の頬を手で包みながら、唇を親指の腹でなぞった。

 誘導してもらってようやく口を開けると、目と鼻の先にある瞳が揺れたような気がして胸がぎゅっと締めつけられる。

 義務ではなく自らの意思でキスをしているのだとしたらうれしいけれど、もし前者だったらこれから頑張るしかない。

 静かすぎるリビングでは密やかに交わる吐息がハッキリと耳に届き、まるで秘めごとをしているみたいだ。

『君を好きなわけではない』と言い放った彼が、私にキスをしている現実に夢心地になった。

 政略結婚をする私たちの始まりは、一ヶ月ほど前に遡る。

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