政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
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 贅の限りを尽くしたラグジュアリーホテルの一階にあるラウンジカフェで、私、柳沢(やなぎさわ)恵茉は頬を引きつらせていた。

「恵茉さんが望むなら、タワーマンションも高級外車もプレゼントするよ。悪くない話だろう?」

 先ほどから聞くに堪えない話を一方的に続けているのは、資産家の千石(せんごく)という三十八歳の男。妻子がいるにもかかわらず、二十四歳の私に愛人になれと言っている。

 こんな下品な話をするために呼びつけたのかと、溜め息がこぼれそうになるのをすんでのところで堪えて意識的に背筋を伸ばす。

 千石さんは柳沢家が所有する先祖代々受け継いできた土地を地上げしたく、交渉の場に私を指名してきた。

 うちが所有する土地は不動産業界で有名になるほど魅力的な条件が揃っており、誰もが喉から手が出るほどほしいと噂で聞いている。

 これまでは柳沢家一族、とくに本家のひとり娘である私が手放すのを強く反対していて、打診を受けていたお母さんと継父(けいふ)がすべて断ってくれていた。

 しかしお父さんが亡くなってから十年が経った最近では、固定資産税を払うことすら苦しくいよいよ立ちいかなくなり。

 家族が穏やかに暮らしていくには、広大な土地を手放すしかないという事実から目を背けられなくなった。
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