それでも愛がたりなくて

付き合う前から、賢治がかなりシャイな性格だということには気付いていた。
「好きだ」と言われたのはたった一度、交際を申し込まれた時だけだった。プロポーズの言葉も「結婚しよう」とひとこと、賢治らしいものだった。
賢治は干渉も束縛もしない。それが時に無関心のようにも思えたが、それが賢治という人間なんだと、塔子は受け入れた。

それでも朝と夜は必ず一緒に食事をし、そしてひとつのベッドで一緒に眠る。それは結婚してから変わっていない。
それと、もうひとつは――

身体の相性が非常にいいということだ。

賢治と初めてひとつになった時、鳥肌が立つような快感と幸福感に満たされた。賢治もそう感じていたのか、互いに求め合い、数えきれない程身体を重ねた。それは、交際から八年経った今も変わっていない。

口数の少ない賢治の唯一の愛情表現なのだろうと、塔子は感じていた。
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