こころが揺れるの、とめられない
こころ、そわそわ

-1-



わたしが芸術科目の中から書道を選択したことに、大した理由なんてなかった。

楽譜は読めないし、絵が得意なわけでもない。

音楽、美術ができないとなると、消去法で書道かな、と思ったからだった。


だけど、もし……。

美術を選択していたのなら、三澄くんの作品を目にする機会が、増えていたのかな。


廊下に寄りかかり、胸に抱いた書道用具を見つめながら、わたしはそんなことを思った。



じんわりと、温かな感覚が胸の内に広がる。

それとともに決まって思い出される、先週の放課後の出来事。


柔らかな光が差し込む、琥珀色の、美術準備室。
三澄くんとふたりきり。

わたしを見下ろすきれいな黒目がちの瞳と、優しく頭を撫でてくれる大きな手のひら。

柔軟剤のいい香りがする、クリーム色のカーディガン。

泣いているわたしに黙って寄り添ってくれた、三澄くんの温もり。


……まるで、抱きしめられている……みたいな。

いったい、どうして、あんなことになったんだろう。


人の弱みを交換条件に出したり、優しく慰めようとしてくれたり。

三澄くんがなにを考えているのか、さっぱりわからない。

わからないから、……知りたい。

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