こころが揺れるの、とめられない
こころ、そわそわ
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わたしが芸術科目の中から書道を選択したことに、大した理由なんてなかった。
楽譜は読めないし、絵が得意なわけでもない。
音楽、美術ができないとなると、消去法で書道かな、と思ったからだった。
だけど、もし……。
美術を選択していたのなら、三澄くんの作品を目にする機会が、増えていたのかな。
廊下に寄りかかり、胸に抱いた書道用具を見つめながら、わたしはそんなことを思った。
じんわりと、温かな感覚が胸の内に広がる。
それとともに決まって思い出される、先週の放課後の出来事。
柔らかな光が差し込む、琥珀色の、美術準備室。
三澄くんとふたりきり。
わたしを見下ろすきれいな黒目がちの瞳と、優しく頭を撫でてくれる大きな手のひら。
柔軟剤のいい香りがする、クリーム色のカーディガン。
泣いているわたしに黙って寄り添ってくれた、三澄くんの温もり。
……まるで、抱きしめられている……みたいな。
いったい、どうして、あんなことになったんだろう。
人の弱みを交換条件に出したり、優しく慰めようとしてくれたり。
三澄くんがなにを考えているのか、さっぱりわからない。
わからないから、……知りたい。