本当は
 そんなある日、教えたはずもないこのマンションのエントランスに、部屋の呼び鈴を押し続ける、彼女の姿があった。
 彼女は酔っていたらしい。
 ただ、なんだか喚かれて迷惑だったので、仕方なく部屋へ上げたが、迫る彼女を軽くかわして、タクシーに乗せて帰らせることが、幾度かあったということだった。 

 奥さんは、自宅がある隣県から会社に通っていたが、そういう日は決まって残業だのなんだのと言って、こちらでホテルに泊まることも度々だったそうだ。
 その間、お子さん、小学生2人はご主人が面倒を見てあった。そもそも、子育てはご主人メインであったらしい。

 「ここでそういうことに、なっていたわけではないのか?」

 「私がルールを破って、押しかけていただけ。もちろん、彼が乗ってきたらここでもやってたわね。」

 悪びれずに奥さんが言う。

 「別れるつもりか。。。」

 「それは、あなたと私の問題よね。
 ただ、てるの奥さんにも知られちゃったし、てるとはもうこれっきりかな。」

 「。。。。。」

 先ほどから央さんは何も言わない。

 『ブォ〜、ブォ〜』

 ご主人の胸ポケットから、携帯のバイブ音が間抜けに響いてくる。

 「 あっ、子供たちを母さんに預けて来たから、、、何かあったのかもしれない。」

 奥さんは、ご主人の母さんと言うフレーズに軽く舌打ちをした。
 ご主人はそれに気づいているのだろうが、携帯を手に持って、一旦部屋を出て行った。

 私は、私の夫が絡んでいることなのに、一方的にこの夫婦の痴話喧嘩に振り回されているようで、だんだんと気分が悪くなって来ていた。

 「央さん、、、」

私の呼びかけに、仄暗い目を私に向けた。

 「何か着てきたら?」

 「あぁ、、、そうだな。」

 一瞬、何を言われたかわからなかったようだった。しばらく私を見つめ、はっと我に返ったようで、自分が上半身裸という事態に気付いたのか、ふらりと立ち上がり、寝室へと入っていった。
< 13 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop