クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
暴かれる
香港に来て二度目の夜。
俺は、派手なネオンが煌めく九龍の目抜き通りを走る、香港名物のオープントップバスに乗っていた。
二階はほぼ満席だ。
四方八方で、矢継ぎ早な広東語が飛び交っている。


広い通りには、けたたましいクラクションがひっきりなしに響き渡る。
バスも街も騒々しい。
その上、通りまでせり出した大きな看板が、頭上スレスレを通り過ぎるため、なんとなく背筋を伸ばしていられない。
正直不快だが、頬を撫でる夜風は秋めいていて、唯一心地いい。


「瀬名サン。腹減リマシタカ? 店、モウスグネ」


ムスッと黙っている俺を気にしたのか、前の席から香港警察の刑事が振り返り、惚けた日本語で声をかけてきた。
彼は、(チャン)と名乗った。
一昨日の深夜、香港に到着した俺たちを空港まで迎えに来て、それからずっとアテンドしてくれている。
年の頃は四十代前半、日本だと警部くらいの階級。
ノンキャリだろう。


「……そうですか」


俺は狭いシートのピッチで窮屈に足を組み替え、仏頂面で答えた。
途端に、隣に座る警視庁刑事部の国枝(くにえだ)部長が、「こら、瀬名」と肘を突いてくる。


「なにをブスッとしている。愛想よくせんか」


警察になって十二年になるが、愛想が必要な職業だったとは初めて知った。
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