熱く甘く溶かして
心配事
 一花の家からの帰り、電車が混み合う時間になってしまったため、二人は途中まで歩くことにした。

 恭介は智絵里が想像していた以上に、尚政と真祐と仲良くなったらしく、いつでもおいでと誘われていた。そのおかげか、恭介が久しぶりに楽しそうだった。

 恭介が何も言わないから智絵里は気付いていないフリをしていたが、先週の半ばくらいからずっと元気がなかった。明るく見せようと、から元気を装ったりしているのもバレバレだった。

 遠くを見てはため息をついて、頭を掻きむしる。何が彼をこんなふうにしてしまっているのか……。智絵里は原因が自分にあるのではと思って不安になっていた。

 今日は一花にそのことを相談しようと思っていたが、彼女を見ていると不思議と勇気をもらえて、ちゃんと自分から向き合うべきだと思えたのだ。

「まさか先輩とこんなふうに話せる日が来るなんて思わなかったよ。すごくいい人だった。あんな人に俺、本当に失礼なこと言っちゃったんだよなぁ」
「そうだね。話すと印象が違うよね。でも真面目で面白いところなんか、二人は似ている気がするけどな」
「そう? 先輩には雲井さんと俺が似てるって言われたよ。なんか包容力があるってさ」

 恭介はにっこり笑うと、智絵里の手を振り回しながら歩き始める。そんな恭介が可愛く見える。

「千葉家って、私たちにとってのパワースポットなのかもしれないね。あの二人って本当に特殊なパワーを備えてるとしか思えないくらいの夫婦だわ」
「真ちゃんもね。可愛かったな〜」

 楽しそうな恭介を見ていると、智絵里まで嬉しくなった。今なら話せるかな。また落ち込ませちゃうかもしれないけど、何か隠しているなら話してほしいと思った。

「ねぇ恭介、私に何か隠し事してない?」

 智絵里の言葉に、恭介は笑顔を崩し固まった。

「ここのところ、ずっと落ち込んでるよね。何かあったの?」
「いや……なんでもないよ、本当に……」

 作った笑顔を貼り付け、恭介は顔を背けた。
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