友達、時々 他人
1.ルール
「ねぇ、私、忙しいんだけど」
私はノートパソコンのディスプレイから目を離さずに言った。
「だから、飯を作りに来たんだろ」と、龍也はジャケットを脱ぎ、シャツの腕をまくる。
「じゃあ、ご飯作ったら帰ってよ」
「うわ、冷てー」
「昨日は合コンだったんでしょ? いい子、いなかったの? 若い子揃いだって張り切ってたじゃない」
冷蔵庫を開ける龍也の背中を見ながら、言った。
「若けりゃいいってもんじゃないな」
「なに、それ」
龍也は自分が買って来た食品を冷蔵庫に入れ、入っていたいくつかの食材を出す。うちの冷蔵庫の中身は、私より彼の方が詳しい。
「なんかさぁ、あのノリに疲れちまって」
「やめてよ、おっさんみたいなこと言うの」
「お前こそどうなんだよ。前の男と別れて結構経つだろ」
トントントン、とリズミカルに包丁がまな板を叩く音がし始めた。
「誰と付き合っても、どうせ別れるんだし……」と、私は小声で言った。
「ん? 何だって?」
「仕事が忙しくて、それどころじゃないだけよ」
私はわざと音を立ててキーボードを叩いた。
龍也が作ってくれたのは、もやしとネギたっぷりの味噌ラーメン。私一人ならカップラーメンだったろう。
「夜は何、食いたい?」
「昼ご飯食べながら夜ご飯の事なんて、考えられない。――つーか、ラーメン食べたら帰ってよ。本気で忙しいんだから」と言いながら、ズルズルと麺をすする。
寝室の隅に置かれた、龍也のスポーツバッグには、いつも着替えが入っている。泊まるつもりで来たのだろう。いつも、そう。
「わかったよ。今日は一回でやめるから」
「何もわかってない!」
「わかってるよ。忙しいんだろ? ホントは二回のところを一回にしてやるって言ってんだから、いいだろ」と、感謝しろと言わんばかりに頷く。
「欲求不満なら、昨日のうちに若い子捕まえとけばよかったじゃない」
「あのなぁ、俺はそんなにお手軽じゃないんだよ。顔が好みとか、身体がいいとか、若いとか? そんなんだけでヤりたくなるほど欲求不満じゃねーんだよ」と、箸先を私に向ける。
「だったら、ヤらずに帰って」
「晩飯はあっさりがいいよな」
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