もっとも苦手な彼と一夜を共にしたならば
「君とは結婚できない、別れよう」

呼びだされてきたカフェ、彼の第一声がそれだった。
彼がなにを言っているのか、まったく理解できない。
つい一週間ほど前、ご両親に挨拶へ行って、一緒に婚約指環を買った。
なのに、この期におよんで〝結婚できない〟なんて。

「……子供が、できたんだ」

言いにくそうに彼が言い、目を逸らす。
子供ができたって、私は妊娠していない。
じゃあ、誰が?
と、少し考えたところで、ひとりの人物を思い出した。

「……別れて、なかったんだ」

頭の芯がこれ以上ないほど冷える。
前に彼が浮気していた、彼の会社の人。
黙っていればいいのに彼女は、得意げに彼は自分と寝たのだと報告してきた。
慌てた彼は一時の気の迷いだったと謝罪してきて、私も許したのだ。
けれど、私は裏切られていたんだ。

「ごめん!
君との結婚が決まって、今度こそ別れようとしたんだ。
でも、子供ができたって……!」

勢いよく彼が頭を下げる。
だから、私に許せ、って?
そんなの、虫がよすぎる。
でも。

「……わかった」

「許してくれるのか!?」

期待を込めた顔で彼が顔を上げる。
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