もっとも苦手な彼と一夜を共にしたならば
しかし思いっきりその目を睨みつけた。

「二度も裏切られて許せるわけないでしょ?」

「そ、そうだよな」

おどおどと彼が、小さく肩を丸める。
それを、無感情に見ていた。

「でも、生まれてくる子供に罪はない。
私は子供のために身を引くの。
あの女のためでも、ましてやあなたのためでもない。
それだけは勘違いしないでね」

彼は黙って俯いている。
かまわずに私は立ち上がった。

「さようなら」

伝票を手に取り、彼に背を向ける。

咲希(さき)……!」

彼の縋るような声が聞こえたが、無視して足を踏み出す。
これ以上、彼の言い訳なんて聞きたくない。

「……バカ」

彼が好きだったから、その言葉を信じていた。
結婚しようと言ってくれたときは嬉しかった。
なのに、この仕打ちはない。

「おっと……!」

前も見ずに勢いよく歩いていたせいで、誰かの胸に飛び込むようにぶつかってしまった。

「す、すみません……!」

慌てて離れ、頭を下げる。

「……森谷(もりや)?」

しかしよく知った声が頭上から降ってきて、思わず相手を見上げていた。

神園(かみぞの)……さん?」

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