妖怪ホテルと加齢臭問題(天音と久遠)

旅館の視察


約束の時間から、20分立った。

坂になっている道路から、
不動産屋の軽自動車が見えた。

おっちゃんが、汗をタオルで
拭き拭き、車から降りて来た。

「ごめんねぇ、なんか、
むこうさん、
都合がつかないって連絡が来て。
また、日程調整するからね」

天音の緊張感が、一気にほどけた。

この日を迎えるために、
どれほど一人で、この旅館を
掃除しまくったか。

少しでも見栄え良くするために、
査定額を上げるために・・・・・

「ああ・・そうですか・・
しょうがないですよね・・・」

このおっちゃんのせいでは
ないのだ。

「本当に悪いね、天音ちゃん、
明日にも、東京に戻るんだよね」

天音は作り笑いをした。
「まだ、ここにいます。
土蔵や物置の整理もあるし・・

立ち退きまでには、何とかしなくてはならないから」

天音はこの事も、頭が痛かった。
祖父の残した美術品、骨董品の多さ。

鑑定団ではないが、金目のものが果たしてあるのか・・・
粗大ゴミで捨てるのか。

「じゃぁ、また、連絡するから」
不動産屋のおっちゃんは、
せかせかと車に乗り込んで、
帰っていった。

さて・・どうするか。
このために、一週間の有休を
取っている。

天音は堅苦しいスーツを脱いで、
ハンガーにかけながら考えていた。
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