忘れさせ屋のドロップス
第8章 忘れられない

華菜と遥が出て行ってから、私は洗い物の続きをして、今晩の夕ご飯の材料を商店街に買いに行った。

本当は遥と一緒に行くつもりだったから、明日の分までの食材だけを買った。それ以上は持ちきれなかったから。


遥は、華菜と食べてくるだろうとは思ったけど、一人分作るのは、やっぱり寂しいから二人分作って冷蔵庫に入れた。

ドロップスを転がしながら、私はダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。

寝室から持ってきた貝殻の沢山入ったガラス瓶を眺めながら、陽が落ちてきた窓辺を見上げる。

今までは、『忘れさせ屋』の広告のせいで、大きな窓は、あまり陽が入らなかったけど、今は違う。


ガラス越しに穏やかな日差しがオレンジ色に姿を変えながら、ゆっくり差し込んで部屋の中に、窓の形そのままに長い影を落としていく。

ーーーー遥、みたい。そう思った。


降り注ぐ太陽みたいに、見上げた遥の笑った顔から目が離せなくて心があったかくなるの。

抱きしめられながら聞く、遥の言葉は、夕陽みたいに、じんわり心に染み込んで、涙ごと包んでくれる。

寂しい影も二人一緒なら、体温を分け合って朝が来るまで眠れるから。

遥に会いたい。いつも側に居て欲しいのに。



(どこにも行かないって言ったのに……)


ポタンと溢れた涙を両腕で重ねて隠すと、私は頭を預けて瞳も閉じた。


ひとりぼっちにしないで。どこにも行かないって笑って。大丈夫だよって抱きしめて。遥。

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