エレベーターから始まる恋
1st floor
月末月初はおそらくどこの会社も忙しなく、空気が張り詰めていることだろう。
いや、どこもそうだと思いたい。
PC画面に集中して黙々とキーボードを叩き続ける私の背後に、ドシドシとわかりやすく足音を立てて近づき、鼓膜が破れそうなほどのボリュームで奴の声が空気を貫く。
「おい坂本!!またちんたらちんたら仕事してるのか!!そんなスピードじゃ外回り行けない営業が困るんだぞ!」
「す、すみません。もう少しで終わるので…」
「いつまで経っても成長しない奴だ」
わかりやすく舌打ちをし、私の後ろから消えたと思ったらまた別の席の人に物凄い剣幕で声を荒げている。
「…坂本さん、俺は大丈夫だから。明日の午前中までに終わってれば全然間に合うからさ」
向かいの席から心配そうに顔を覗かせているのは、営業の大橋さん。
「すみません…ありがとうございます。どうしても細かくチェックしないと心配で」
「坂本さんの作った資料、文章も簡潔でわかりやすいし本当に助かってるんだ。いつもありがとうな」
そう言って大橋さんは柔らかく微笑んだ。
奴…営業部長の石岡さんに怒鳴られるのは慣れたものだが、こうして気遣ってくれる先輩がいると涙が出てきそう。
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