初恋の味は苦い

新年

年が明け、慣れない西暦に悪戦苦闘していた頃のことだった。

僅かに積もった雪がジャリジャリと足元で踏まれて溶け出す。
温度がレインブーツの内側まで伝わってきて、つま先が凍える。

年度末に向けて営業も力を入れており、連日のように残業続きだった。

5時を過ぎれば真っ暗になる。
私は最近夕陽を見ていない気がする。

私はまた祥慈がいなかった頃の人生に戻り、少し転職を考え始めていた。
ずっとこの会社だけで生きてきたけど、給料も安いし残業は多いし。転職サイトにとりあえず登録する。

一週間もやっと終わって明日は土曜日だというのに、なんだかんだ土日も仕事のことを考えながら過ごす日々をどうにかしたかった。

駅へと下る階段を前に、スマホが鳴る。

私はダウンコートのポケットに手を入れたが、振動がリュックからだと気付く。
久しぶりのことだった。

リュックをお腹の方に向け、外側のポケットからプライベート用のスマホを取り出す。

そこに映る名前にハッとする。驚きを感じつつも、急いで電話に出る。

「もしもし」
「もしもし」
「多田です」
「森山です」

懐かしい声の響き。

「今暇?」
「うん、暇だよ、どうしたの急に」
「いや、なんかどうしてっかなと思って」
「寂しくなったの?」

私は冗談混じりに言いながら、入り口脇の人の少ないところに移動する。

「うん、寂しくなった」

電話の向こうで照れ臭そうに言う。

「全然知り合いもいないし、職場と家の往復だし」
「私と一緒じゃん」

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