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(2)

「大狼さぁん、コピーできましたぁ」
「書類って、これでいいですかぁ?」

「……どうも」

 微妙に顔を引きつらせながら、駿介はくねくねした女子社員から書類を受け取る。その顔はうんざりしているのを隠すことなく表に出していて、また1回1回ため息を吐いて態度でも示していた。

(さっきのは開発の丸野(まるの)さん……。それに、営業の柳原(やなぎはら)さんも来てたなぁ)

 手元の書類をデスクの上で整えながら、千真はぼんやりとそんなことを思った。
 駿介の怪我は、当然のことながら狭い社内では瞬く間に公然となり、これ幸いと思ったのか、普段は近寄ることさえできない女子社員が、次々に駿介の元に用事がないか確認に来ていた。正直、駿介ではないが、ウザイと思うほどに。

 駿介は断るのも面倒なのか、来てくれた人には仕事をお願いしていたものの、やはり回数が増えればそれだけ煩わしさも増え、眉間の皺も増えていた。
 眉間の皺と言えば、千真の隣の席にいる竹田(たけだ)(がく)にも、段々と皺が増えている気がする。

「ほかの部署からわざわざ……、すごいですよね」

 駿介には聞こえないくらいの小さな声で千真が学に話しかけると、学も激しく同意して首を縦に振った。

「それな。そりゃ、怪我してるのは大変だと思うけど、俺らでもできる仕事なんだから、わざわざ他部署から来る必要なんてないよな、絶対」

「ですよねぇ」

 でもこの様子だと、どうやら千真に手伝う隙間なんて微塵もなさそうだ。千真に頼むくらいなら、ほかの見目麗しい女子社員に頼むだろう。その点については安心した。旭の誤解は、解けていないままではあるのだが。

「駿介さんも優しいから、断り切れないんだろうけど。なんていうか、覇気がなくなるっつーか」

「あー、判ります、それ」

 真面目に仕事をしているオフィスで、大狼さぁん、といちいち甘えた猫撫で声で入って来られたら、こっちのやる気が阻害される。そうか、なんとなくイライラしてたのは、そのせいだったのかもしれない。
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