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6. お礼参りの行き先

(1)

「針谷くん」

「はい」

 名前を呼ばれた顔を上げた圭樹は、国浦が手招きをしているのを見て慌てて駆け寄った。そのまま会議室へと入っていくのに流れるようについていくと、国浦のほかに、駿介と旭、それから営業部長である河野(こうの)匡臣(まさおみ)がいて、明らかに場違いな空気に、一旦足を止める。

「そこ、座ってくれる?」

「……はい」

 ごくり、唾を飲み、国浦に言われるまま、一番入り口に近い場所に座るが、なんだろう、この面接のような空気は。
 一体、自分はなにをやらかしたのか、と頭をフル回転させていると、針谷、と名前を呼ばれ、慌てて顔を上げた。

「おまえ、賀永の同期だったよな。仲、いいんだろ?」

 聞くことが不本意なのか、ぶすっとした表情を隠さない駿介に言われ、混乱しながらも、はい、と頷く。

「賀永さんから、なにか聞いてないかな?」

「なにかって……、なんですか?」

 旭からそう問われ、ドキッとする。
 圭樹が千真から聞いていることといえば、旭に告白しようとしたが間違って駿介にメッセージを送ってしまったということだけだ。それを今、この場で言うのは、なにか違う気がする。
 いやでも、それを言わせようとしているのか。

 正解が判らなくてぐるぐるしていると、実はね、と言いにくそうに、旭が口を開いた。

「ひどいミミズバレを作ってもらったみたいでね。誰に作ってもらったか、知ってたら教えてもらえないかなーと思って」

「ミミズバレ……?」

 やっぱり、メッセージの件は言わなくて正解だったようだ。
 けれど、ミミズバレの話なんて、した覚えはない。千真とは顔を合わせば話をするし、相談があるときには時間を合わせてリフレッシュルームに行ったりもする。
 最後にちゃんと話をしたのは月曜日だけれど、そのときはそんなことは微塵も言っていなかったのだが。

「……そういえば」

 昨日の朝だったか。偶然トイレから出てきた千真に声をかけたとき、ひどく怯えていたような気がする。
 本人はなんでもないと言っていたが、もしかしたら。

「丸野さんと、営業の柳原さん……?」

「待て、駿介!」

 ぽつり呟いたのを、駿介が聞き逃すはずがない。
 がたっと立ち上がった駿介を、旭が羽交い絞めにして止める。国浦と河野もそれに加勢していて、圭樹だけが圧倒されていた。
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