モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「まっ、でもグレゴールの野望は、残念ながら叶わないわね」
 カロリーネは、けろりと言った。
「クリスティアンの側妃になるのは、この私ですもの。今夜はあなたを偵察するつもりで来たけど、必要無かったわね。話にならないわ」
 見下すような視線を投げられ、私はカッとなった。だが、ここでキレるわけにはいかない。側妃狙いだということは、あくまでも伏せておかなければいけないのだから……。
「ですから、そのようなつもりは……」
「ところであなた、グレゴールを好きなの?」
 カロリーネが、またもや私の言葉を遮る。からかうような笑みを浮かべていた。
「さっき、彼を庇っていたから。でも残念ね。彼も、私のものよ」
「――はい!?」
 クリスティアンの側妃になる、と今宣言したばかりではないか。唖然としていると、カロリーネはケラケラ笑った。
「知らないの? 上流貴族は、愛人を持つのが普通よ。別に私、グレゴールの奥方になろうなんて思わないもの。クリスティアンの側妃におさまって、富と権力を手にし、グレゴールとは陰で遊ぶの。兄は怒るでしょうけど、それも何だか燃えない? 『ロミオとジュリエット』みたいだわ」
「あり得ません!」
 私は、思わず怒鳴っていた。
「少なくとも私がいた世界の価値観では、非常識すぎます。不倫はいけないこととされていましたし、している人は非難されました。本当にそれが、この世界の常識なら、私は付いていけません」
「あらそう」
 カロリーネは、スッと顔色を変えた。
「じゃあ、元の世界へ戻ったら?」
 私は、ぐっとつまった。
「戻れないのよねえ? だからグレゴールにすがっているのでしょう」
 カロリーネが、小気味よさげに笑う。
「けれど残念ながら、側妃にはなれないようだし……。役に立たないとわかったら、グレゴールはあなたをどうするかしら? 世話をし続けるほど、彼はお人好しじゃないわよ。娼館にでも売り飛ばすのじゃない?」
 ドキリとした。初めて会った時、グレゴールが言ったことを思い出したのだ。
 ――仕方ない、娼館にでも売り飛ばし……。
 本気だろうか、と私は身を震わせた。側妃を目指して、ずっと頑張ってきたけれど、クリスティアンに気に入られるという保証は無い。元の世界へも帰れない身で、私はどうなるのだろう。
(本当に、売られる……?)
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