モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「お待たせしました、グレゴール様……、って、北山さん!?」
 榎本さんが、私を見て驚いた顔をする。グレゴールは、にこやかに私たちを引き合わせた。
「マキ殿、ハルカとは久しぶりであろう? 積もる話もあるのではと、連れて来た。今、お時間はあるだろうか?」
「ええ、殿下の治療も終わったところですし。彼女とお喋りして、いいんですか?」
 榎本さんは、懐かしそうに私を見た。グレゴールが頷く。
「時間がおありなら、よかった。私は一時間ほど外しているので、歓談されるといい」
 気を利かせたのか、グレゴールは早々に去って行った。部屋に通されると、私は開口一番尋ねた。
「榎本さん、どうしてあの時の格好のまんまなの?」
「だって、動きやすいんだもの」
 榎本さんは、あっさり答えた。
「最初は皆、ドレスを着せてこようとしたんだけどさ。動きが制限されるのは嫌ですって言い張ったの。殿下の治療をさせていただくのだから、身軽な方がいいじゃないですかって主張したら、渋々折れてくれた」
 変わらないなあ、と私は思った。会社でも、意見をはっきり言う人だったっけ。正論だから、皆ビビりつつも納得していたのだけれど。
「だけど、一着しかないのに、着替えはどうするの」
「男物を借りてる」
 榎本さんはけろりと言った。
「シャツに、トラウザーズ。最初は皆呆れてたけど、降参したみたいね」
 からからっと笑うと、彼女は私にソファを勧めた。室内は、思った通り広々としていた。応接セットに、机、書棚がセンス良く配置されている。寝室は、奥にあるようだった。
「食べよう。甘い物、好きだったよね?」
 榎本さんは、クッキーの入った籠を持って来ると、でんとテーブル上に置いた。しみじみと、私を見つめる。
「久々に会えて、よかったあ。北山さんのこと、心配してたんだよね。本来ここへ来るべきは私なのに、巻き込んじゃったから、責任も感じるしさ」
「それは、榎本さんのせいじゃないし。私なら、元気にやってるから、大丈夫」
「ならいいんだけど」
 榎本さんは、ほっとしたように微笑むと、クッキーをつまんだ。
「北山さんは、そのドレス似合ってるね。髪は、切ったんだ?」
 茶色に白い小花の散った、今日の私のドレスをしげしげと見ながら、榎本さんが言う。
「うーん、正確には、切られたんだけど。巻き毛って、ここでは良くないんだって。びっくりだよね!」
 元の世界の人間と話す気安さから、私はつい勢い込んだ。
「他にも、日本とは価値観が違うことだらけで、面食らってばっかりだよ。ま、大分慣れたけどね」
 まくし立てると、榎本さんはちょっと意外そうな顔をした。
「……何だか北山さん、キャラが変わったね。前は何て言うか、その……」
 さすがの彼女も、言いよどんでいる。私は、察して自分から言った。
「ぶりっ子だった、よね? もっと言えば、あざかわ女子」
「ん、まあ……」
 榎本さんは苦笑した後、私をじっと見つめた。
「でも、今の方がずっといいよ。魅力的」
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