モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

7

「やれやれ。やっとその気になったか」
 グレゴールは、再び私の方を向き直った。
「お前はクリスティアン殿下が気に入らないようだが、この際そんなことを言っている場合ではないとわかったか」
「気に入らない? いえ、そんな!」
 どうしてそう思われたのだろう、と私は不思議に思った。グレゴールが、眉をひそめる。
「ならば、なぜ殿下のお体に触れるような真似をした? あれは、嫌いな男に取る態度だぞ」
「えええ!? そうなんですか? この世界では?」
 私は、仰天した。彼の身分が高いから、ではなかったのか。日本とは、まるで逆ではないか。
「お前のいた世界では違うのか? じゃあ、俺のことも嫌いではないということか」
 グレゴールは、くすりと笑うと、自分の上着の裾に視線を走らせた。そこを握りしめていたことに気づき、私は慌てて手を放した。
(異世界だから、価値観が違う、とか……?)
 『小首かしげテク』が通じなかったのも、『困ったアピール』に皆が無反応だったのも、それならば納得できる気がした。
「お前は、色々と矯正する必要がありそうだな」
 グレゴールも同じことを考えたのか、ため息をついた。
「しばらく俺の家に住んで、特訓するがよい。言動を改めて、妃にふさわしい女性になるのだ。どのみち、この世界について学ばねばならないだろう?」
「あなたの家、ですか」
 私は、グレゴールをチラリと見上げた。そういえば、彼が何者なのか、私はまだ知らされていない。クリスティアンとのやり取りからして、ある程度地位の高い人間だろう、ということは想像がつくけれど。
「グレゴール・ハイネマンだ。このイルディリア王国の宰相を務めさせていただいている」
 私の疑問に気づいたのか、グレゴールはあっさりと自己紹介した。
「姉が未婚で、まだ家にいるから、彼女から色々と教わるとよい」
 お姉さんが一緒なら、危険なこともないかな、と私は判断した。というより、断ったら娼館行きだ。
「北山春香といいます。よろしくお願いします」
「では、ハルカ。早速、特訓の始まりだ」
 グレゴールは、にっこりと笑った。それまで怖い顔つきだっただけに、私はほっとした。それに、イケメンの笑顔は破壊力がある。だが彼は、こう続けたのだった。
「取りあえず、その首を傾ける仕草は止めろ。紛らわしくて、イライラする」
< 7 / 104 >

この作品をシェア

pagetop