※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


「本当にありがとう、オルニア!」


 一人の少女がそう言って瞳を輝かせる。上品な出で立ち。昨夜の夜会で婚約者と婚約を破棄された伯爵令嬢――――今回の依頼人であるセリーナだ。


「お役に立てたなら光栄よ」


 オルニアが微笑む。セリーナは首を横に振りつつ、笑みを深めた。


「役に立ったなんてもんじゃないわ! 
だって、あちらの方が格上だから、こちらからは婚約を破棄できないでしょう? 解消してくれそうな様子もなかったし、本気で困っていたの。
あんな不良債権と生きて行くなんて私はごめんよ! 綺麗さっぱり別れられて、本当に良かった!」


 ある時は不倫中の女性の交際相手の元に、またある時は、政略結婚を控えている男性の元に赴き、誘惑をし、自分に心底惚れさせる。そうして、依頼人の希望――――不倫を止めるキッカケを作ったり、婚約を破棄させる――――を叶えることが、オルニアの仕事だった。


 今回のターゲットは、セリーナの元婚約者だ。
 彼は密かに借金を抱えつつ、それを打ち明けることなくセリーナと婚約を結んだ。女遊びの激しい侯爵家の三男。領地経営の手腕もなく、城で出世が出来るようなタイプでもない。その癖、プライドと親の爵位だけはいっちょ前に高い。得が一切無い所か、災いを生みかねない男――――だから、男の方から婚約破棄を言い出すよう仕向けた。
 男爵令嬢と身分を偽って彼に近づき、惚れさせ、婚約破棄に持ち込ませたのである。

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