期限付きの政略結婚 〜過保護な副社長とかりそめ妻のすれ違い恋愛事情〜
1.この結婚は期限付き
春うららと呼ぶにふさわしい季節になってきた。

庭の梅の木が紅色の花を咲かせ、蜜を求めてやってきたメジロが楽し気にさえずる。

暖かな日が窓から差し込むのどかな日曜の昼下がり。

私、倉橋瑞穂(くらはしみずほ)は、かれこれ一時間以上鏡とにらめっこをしている。

なんだか思ったのと違うなあ。

鏡の向こうの自分が不満げに首を傾げる。

コスメカウンターでタッチアップしてもらった時は、もっと垢抜けた上品な雰囲気に仕上がったのに。

自分で試してみると、どうも派手に見えて違和感がある。

普段化粧らしい化粧をあまりしないから余計にだろうか。

『瑞穂は目がぱっちりしてて美人だから、メイクいらずで羨ましいわ』と友人に揶揄られたことがあるけど、美人だなんてお世辞にもほどがある。

日本人らしく凹凸の少ない平凡な顔立ちだ。

メイクをあまりしないのも、ただ不器用だから薄づきのパウダーファンデーションくらいが精一杯なだけ。


そんな私がどうして今鏡の前で格闘しているかというと、昨夜仕事から帰ってきた父に、さらりととんでもないことを言われたからだ。

『明日の昼過ぎに、斗真(とうま)くんがうちに寄るそうだよ』

驚きすぎて食べていたご飯を誤嚥しかけ、思いきりむせこんで死ぬかと思った。


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