魔法のいらないシンデレラ
第二十一章 早瀬
「はい、総支配人室です。あ、瑠璃さん?うん、うん」

一生は思わず体をピクッとさせ、受話器を持つ早瀬に意識を向ける。

「あー、なるほど。いいね!うん、分かった。それなら…」

そこまで言って、ちらっと一生の方を見る。

「じゃあ、オフィス棟に行った時にでも顔出すよ。うん、はーい。またあとで」

電話を切ったあとは、何事もなかったかのようにまたパソコンに向かう。

(な、なんだ?何だったんだ?瑠璃さんが早瀬に何の用だ?しかもあいつ、妙になれなれしく。いつの間にあんな?)

一生は、手を止めたままパソコンの画面を睨む。

会話の途中で、早瀬がこちらの様子をうかがったのにも気づいていた。

(俺に内緒の話か?なぜ、そんな…)

仕事にも戻れず悶々としていると、しばらくして早瀬が立ち上がった。

「ど、どうした?」

思わず自分から声をかけてしまう。

「は?あの、コーヒーをお淹れしようかと…」
「あ、ああ、そうか」

(落ち着け、何をソワソワしているんだ。俺としたことが…)

やがて早瀬が、一生のデスクにコーヒーを置いてくれる。

「ありがとう」

いつもの調子で、すまして礼を言った時だった。

「フロントの引き継ぎの時間ですので、立ち会いに行って参ります」

ぴたっと手を止める一生に構わず、早瀬は一礼したあと、部屋を出ていった。
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