若旦那様の憂鬱

柊生side

花の見合いの日。

朝から落ち着かず、年甲斐も無くソワソワしてしまう。
俺がバタついたところで何も変わらないけれど…。

出来れば会ってほしく無かった。

前嶋貴文、大手旅行代理店の御曹司。
今の肩書きは営業部長だったか……。

腹の中が見えない、
何を考えてるか分からない奴。

まぁ、俺もそうだが…

本性が分からない所が我ながら似た者同士だと思っていた。

何となく同じ匂いを感じ、
お互い必要以上に近寄らないようにしていた。

10歳も離れた男が何で花を指名するんだ?

一瞬、俺への当て付けか⁉︎

とも思ったが、そんな事をしてもお互いなんの得も無い。と、思い直す。

花を信じて待てばいい。

だが…花はまだ若い…、
好きだと言われるとコロッと流されるか?

不安が拭い切れず朝から一喜一憂する。

思えば俺の人生は、花によって動かされていると言っても過言じゃ無い。

花に合う前まで、
俺は若旦那と呼ばれる事にうんざりしていて、いつかこの家を出て行ってやるんだと心の中では思っていた。

大学を卒業するタイミングで花が妹になって、何故かここから離れたく無いと思った。

出来れば、
花の成長を1番近くで見ていたいと切望した。

気付けば嫌だった若旦那になって、
兄として彼女の側に居続けた。

この切ない恋心に気付いた時には苦しくて、
辛くて、離れなければと何度思った事か…。

だけど、今となっては旅館の仕事も意外と楽しくなってきた。
それに、花も手に入れる事が出来たのだから、良かったんだと思う。
< 118 / 336 >

この作品をシェア

pagetop