若旦那様の憂鬱
第三章 幸せの在り方
「花の事だから、まだ泊まる所予約してないんだろ?せっかく北海道まで来たんだ。
知り合いの旅館に泊まろう。」

花はハッと大事な事に気付く。

「えっ…えっ⁉︎柊君仕事は?旅館はいいの⁉︎」
柊生をよく見れば、
朝の背広のまま…着替える間もなく追いかけて来た事を物語っていた。

「親父からは花を見つけるまで帰って来るなと言われた。どうせ北海道まで来たんだから、このまま新婚旅行でいいんじゃないか?」
そう笑う柊生は既にこのまま1週間くらい居座るくらいの勢いだ。

「ま、待って!!
肝心な事が…あの人は⁉︎
まだ旅館にいるんでしょ⁉︎」

花は早くも休日モードの柊生に動揺しながら、手を引かれるままについて行くしかない。
「あの人は親父と弁護士に任せておけば問題無い。
親父はああ見えて結構、
修羅場を通って来てるんだ。
心配しなくても上手くやるはずだ。」

ますます花は訳が分からなくなる。

私さえいなければと思い悩み、
2度とあの地を踏まない覚悟で出て来たのに…

「旅館には、あっちの世界の人も結構来るんだ。宴会で殴り合いの喧嘩だってあるし、
無賃滞在客や窃盗目的の泥棒だって来る。
だから、心配するな。あんなチンピラまがいの男1人くらいどおって事無い。」

えっ……そうなの⁉︎

「だから、花には旅館業をして欲しくないって親父も俺も思ってる。
綺麗な花の心を汚したくないからな。
どんな煌びやかに見える場所だって、
光と影は必ずあるんだ。」

タクシー乗り場で2人タクシーに乗り込む。

「ちょっと女将さんには連絡入れておく。」
そう言って、柊生はスマホを操作する。

花は呆気に取られながら、ずっと繋がれた手をぼんやり見つめる。

「もしもし、花が見つかりました。今隣にいます。」

「はい……はい、分かりました。
……そうさせて頂きます。」
簡単な報告だけで電話を切る。

「お母さんなんて?」

「せっかくだからのんびりして帰って来てって、花にはスマホには必ず出るようにってさ。」
そう言って、自宅に置かれていた花のスマホを渡す。

「こういうのは二度とやめてくれ。
心臓に悪い。…指輪も、簡単に外さないで欲しい。」
少し不貞腐れた顔をして花の左手薬指に2個の指輪を戻す。

「ご、ごめんなさい。」

指輪にキスまで落とすから花は焦ってしまう。
タクシーの運転手さんが見てたらどうするの?と目が泳ぐ。
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