彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】

攻防

 深夜実家に帰り、眠れないまま早朝に出社した。

 母は早朝だというのに、喫茶店の仕込みの合間に、私の朝ごはんを出してくれた。

 そして身体が心配だから、会社の近くで一人暮らしをしたらと言ってくれた。しかも父の説得を請け合ってくれた。

 私は幸せ者だ。お兄ちゃん夫婦をはじめ味方ばかりだ。頑張らなくちゃと思った。

 夜は眠くてメールの確認もろくにしなかった。そんな時に限って彼から着信もあった。メールの返信しなかったから、彼がいない夜にどこへ行ったのか心配だったのだろう。
 
 とりあえず、電車で返信できなかったことを詫びて、何も心配いらないと返事をした。すると話があるとすぐに返信が来た。

 嫌な予感がして、わかりましたと返信し、出社中なのであとでと書いて話を終わらせた。

 嫌な予感は的中した。

 会長が出社していなかったので、会長秘書に昨日のお礼を言付けした。その後秘書室へ顔を出すやいなや、他の役員秘書から噂聞いたわよと探りが入った。

 すがるような目で篠田さんを見る。

「皆さん決まっていないことを軽々しく話す人は守秘義務違反で秘書を辞めて頂きます」

 秘書課長がいつもの決まり文句で追い払ってくれた。でもこの状態じゃ他の役員の耳にも入っていて、おそらく同行している役員から彼の耳にも入っていると確信した。
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