敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
1 社長と秘書
コーヒーの香ばしい匂いが鼻を掠め、重い目蓋を押し開ける。

「おはようございます、珠子(たまこ)さん」

薄目を開けると、端正な顔立ちの男性が穏やかに微笑んだ。

彼は沖田(おきた)優介(ゆうすけ)、同い年の二十九歳。
隣に住んでいる私、茅原(かやはら)珠子(たまこ)を起こすのが日課だ。

優介はまだ眠気まなこの私を残し、寝室を出るとキッチンに向かう。

「朝食はトマトサラダでいいですよね?」

壁一枚隔てた向こう側から声が届いた。

アルコールが苦手な私は、摂取した翌朝には無性にトマトが食べたくなることを、優介は熟知している。

「うん、お願い」

言いながら起き上がり、ベッドから出て裸足でひたひたと洗面所まで歩く。

「うわー……」

そして洗面台の鏡に映る自分の顔を見て絶望した。

二日酔いで腫れぼったい二重目蓋、浮腫んだ顔。
肌は白すぎて不健康に青みがかっている。

学生時代は周りから大人っぽいねと言われてきたけれど、普通の高さの鼻、小さめな口と、自分では特徴のない顔立ちだと思う。
髪型は特にひねりのない黒のセミロング、体型も平均的。

「はあ」

寝癖頭の私は、鏡の前でため息を吐く。

こんな私を見ても優介は表情ひとつ変えず、いつもと同じ対応を見せたのだ。
彼は私の顔などには興味ないらしい。

けれども少なくとも私は、というか私を含めた彼と関わる女性は皆、優介の容貌に関心がある。

容姿端麗な彼はとにかく目立つのだ。

身長は180センチ、長い四肢の抜群スタイル。
くっきりとした二重の切れ長の目と、高く整った鼻梁からクールな印象を抱かせる。シャープな顔の輪郭に、セットされた黒いサラサラヘア。

優介ほどオシャレでハンサムな男性を見た経験がない。

仕事で一緒のときもプライベートでも、優介の外見に感嘆のため息を漏らす女性は数多い。

さっきだって、いきなり起き抜けの視界いっぱいに美麗な顔立ちが広がるんだもの。
なんとか平静を装ったけれど、本心ではハッとして息を呑むほどだった。
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